祖父の思い出

次郎 さん(東京都 32歳 )から頂いた投稿です。 家族編

 

 「おい、今からうまいものを食べに行こう。」
 子供の頃、週末に祖父母の家に遊びに行くと決まってこう祖父から声が掛かった。
大抵は地元のそば屋や洋食屋に祖母を含めた三人で向かうのだが、時には銀座や浅草まで張りきって出掛けることもあった。
 そんな時にはデパートでおもちゃを買ってもらえるのに加えて、和洋食の老舗(その時分には知る由もなかったが)でおいしい食事にありつけるのも嬉しく、胸がはずんだものだ。

 明治生まれで家の事は何でも祖母にさせておいて悠然と構えている祖父も、なぜか家で作るすき焼きだけは自ら全てを行ない、皆に振る舞った。
 食材の買い出し、割り下づくり、具を入れる順番、火の通し加減...おそらく、現役時代に通った店の味と作り方を覚えて家で実践していたに違いない。味は今でもはっきり覚えているが、砂糖を多く入れたかなり甘いものだった。
 その祖父も2年前に大往生を遂げ、もうお手製のすき焼きを食べることもできないが、その味は我が家にしっかりと受け継がれている。

 すき焼き、しゃぶしゃぶ、ビフテキ(こう呼んでいた)、ハンバーグ、果ては缶詰の大和煮と大の牛肉好きだった祖父に似て、私もやはり牛肉好きだ。
 先日、ちんやさんですき焼きをいただく機会があった。こちらでは仲居さんが最初の分を焼いてくれて、早く食べたい欲求をこらえながらビールを飲み飲みじっと待つのだが、肉も野菜も実においしそう。

 「さあ、どうぞ。」
 「いただきま~す!」

口いっぱいに広がる、甘く懐かしい味!
 ほおずき市や酉の市、桜に花火に水上バスと、浅草に連れてきてもらった思い出が頭の中に広がる。そうそう、ちんやさんにも連れてきてもらったっけ。
 こうして、食べ終わる頃には胃も心もいっぱいに満たされた冬の夜だった。

 
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